PTTD(後脛骨筋腱機能不全)は、足の内くるぶし(内果)の後ろを通り、土踏まずを支える後脛骨筋腱に炎症や変性が起こる傷病です。進行すると腱の機能が低下し、部分断裂や完全断裂を起こすこともあります。
PTTD(後脛骨筋腱機能不全)とは
PTTD(後脛骨筋腱機能不全)は、歩行や立ち仕事、スポーツなどによる反復的な負荷が後脛骨筋腱に加わることで、炎症や変性、部分断裂が生じる傷病です。
後脛骨筋腱は、土踏まず(内側縦アーチ)を支え、足のバイオメカニクスを正常に保つ重要な役割を担っています。そのため、腱の機能が低下すると内側縦アーチを支えきれなくなり、踵が外側へ傾いた外反扁平足へ進行することがあります。
さらに病状が進行すると、後脛骨筋腱が完全断裂し、足の変形が固定化することがあります。その結果、距骨下関節をはじめとする足部の関節に過剰な負担がかかり、変形性関節症を引き起こすこともあります。
PTTDは後脛骨筋腱だけの問題ではありません。足全体のバイオメカニクスが乱れることで歩き方が変化し、その影響を補おうとして「代償動作」が生じます。そして、その代償動作がさらに別の代償動作を生み、膝や股関節、骨盤、腰など全身へ負担が連鎖していく可能性があります。
そのため、PTTDでは痛みのある後脛骨筋腱だけを診るのではなく、足全体の骨格や関節の動き、歩行まで含めたバイオメカニクスの評価が重要です。
※下PTTD画像
PTTDの原因
PTTDの引き金は「後脛骨筋への繰り返しの負担」
まず、PTTDがなぜ起こるのか。その直接的な原因は、すねの筋肉から内くるぶしを通って足の裏へと繋がる「後脛骨筋(こうけいこつきん)」という筋肉や腱に、繰り返し過度な負荷がかかることです。
この後脛骨筋は、歩行時や走行時に足の「土踏まず(縦アーチ)」をグッと引き上げて支える、まさに足のサスペンションの主役とも言える筋肉です。
しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。 「同じスポーツをして、同じように負荷をかけているのに、なぜ発症する人としない人がいるのか?」ということです。
単に「使いすぎ(オーバーユース)」だけが原因なら、同じ練習メニューをこなしているチームメイト全員が同じように痛めるはずですよね。でも、実際にはそうではありません。
原因は「足のバイオメカニクス(生体構造)の乱れ」にあり
当院では、「発症する人」と「発症しない人」の違いには、足のバイオメカニクスの乱れが大きく関与していると考えています。
特に問題となるのが、「回内足(かかとが内側に倒れ込む状態)」や「前足部(つま先側)の歪み」です。
本来、私たちの足は着地した瞬間にクッションのように衝撃を吸収し、次に地面を蹴り出すときにはカチッと硬いレバーのように変化して効率よく力を伝えます。これが正常なバイオメカニクスです。
しかし、回内足や前足部の歪みがあると、足が潰れたまま(クッションのまま)グラグラした状態で無理に地面を蹴り出さなければならなくなります。このとき、潰れそうになる土踏まずを必死に支えようとして、一歩歩くごとに「後脛骨筋」へ通常を遥かに超える大きな負荷がストレートにかかり続けてしまうのです。
つまり、歪みがある足は、普通に歩いているだけでも「常に全力で坂道を駆け上がっている」ような異常な過重労働を筋肉に強いている状態なのです。
PTTDだけじゃない!足元の歪みが招く下腿のトラブル
このバイオメカニクスの異常がもたらす悲劇は、PTTD(後脛骨筋)だけにとどまりません。すねやふくらはぎ(下腿)の筋肉や腱は、すべて足元のバランスと連動しているからです。
足元の構造が崩れると、それぞれの筋肉が本来受けるべきではない方向へ引っ張られたり、ねじられたりします。その結果、以下のような様々な障害を引き起こす原因になります。
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シンスプリント: すねの内側の骨膜に炎症が起きる、学生ランナーに多い痛み
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アキレス腱断裂・アキレス腱炎: かかとの傾きにより、アキレス腱がまっすぐではなく斜めに引き伸ばされて断裂や炎症のリスクが急増
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下腿三頭筋の挫傷(肉離れ): ふくらはぎの筋肉が異常に緊張し、強い負荷に耐えきれずブチッと微細断裂を起こす
当院が「痛む場所」だけでなく「足の動き」を診る理由
当院では、痛みが出ている後脛骨筋だけに電気療法や手技療法を行うだけでは十分とは考えていません。なぜなら、原因である「足のバイオメカニクスの乱れ(歪み)」をそのままにしておけば、一度痛みが引いても、また同じ負荷がかかって再発してしまうからです。
当院では、患者様が「回内足になっていないか」「足部の関節が正常なバイオメカニクスで機能しているか」など、足全体の動きを徹底的に分析(バイオメカニクス評価)します。
そして、根本的な原因に対してアプローチを行い、必要に応じてインソール療法などを組み合わせることで、負担そのものがかからない正しい足の動きを取り戻していきます。
「どこに行っても足の痛みが繰り返す」「根本からしっかり治したい」という方は、ぜひ一度当院にご相談ください。あなたの足の「負担の原因となっている足のバイオメカニクス」を一緒に見つけましょう。
「繰り返す原因から改善したい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。足全体のバイオメカニクスを評価し、負担の原因を一緒に見つけていきましょう。
PTTDの主な症状と病状の進行
1. 歩行時の変化(初期〜進行期)
後脛骨筋の引っ張る力(牽引力)が弱まると、足の裏のアーチを維持できなくなります。 その結果、歩行の一連の動作(かかとが地面に着いてから、つま先で地面を蹴り出す直前まで)において、足首が内側に倒れ込む「回内足(かいないそく)」の状態が続くようになります。クッション機能が失われるため、歩くたびに足に大きな負担がかかります。
2. 足の見た目の変化(変形の進行)
病状がさらに進行すると、骨の配列に歪みが生じます。上から足元を見たときに、つま先が外側を向いていく現象(Too-many-toes sign)が見られるようになります。これは、かかとに対して足の構造が外側に流れてしまうために起こる変形です。
3. 痛みの位置の変化(内側から外側へ)
痛みの現れる場所は、病期の進行度合によって変わっていくのが大きな特徴です。
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初期〜中期(内側の痛み): まずは傷ついている後脛骨筋腱がある「足首の内くるぶしの下あたり」に痛みや腫れが生じます。
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後期(外側の痛み): 変形が進行してさらに足が平ら(偏平足)になると、今度は足の外側の骨同士(踵骨と腓骨など)が衝突するようになります。これにより、最初は内側だけだった痛みが、「足首の外側」にも現れるようになります。
PTTDを進行させないために
後脛骨筋腱への負担を減らすことが重要
なぜ後脛骨筋腱は損傷しやすく、一度傷つくと治りにくいのか?
後脛骨筋腱がダメージを受け、さらに再生が困難になってしまうのには、「物理的なストレス」と「組織そのものの性質」という2つの大きな理由があります。
1. 腱を傷つける「物理的なストレス」(原因)
歩行や走行時に、足元に以下のような崩れが生じると、後脛骨筋腱に引き裂かれるような強い負担が繰り返し加わります。
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過回内(かかいない): 足首が内側に過剰に倒れ込む動き
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前足部の背屈(はいくつ): つま先側が上に反り上がるような動き
これらの異常な動きが重なると、土踏まずを吊り上げている後脛骨筋腱には、引き伸ばされながらねじれるような不必要で過剰なストレスが集中します。この限界を超えた負担が蓄積することで、腱の微細な損傷が始まります。
2. 傷ついた腱が再生しにくい「生物学的な理由」(結果)
筋肉などの組織は傷ついても比較的早く修復されますが、腱(けん)はそうはいきません。
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血管が極めて少ない(乏血行野): 腱という組織は、もともと通っている血管が非常に少ないという特徴があります。
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酸素や栄養が届きにくい: 組織が修復・再生するためには、血液によって運ばれる「酸素」や「栄養」が不可欠です。しかし、血流が乏しい腱にはこれらが十分に届きません。
この血流不足(栄養不足)により、「一度傷ついた腱は自力での再生・修復が極めて難しい」と考えられています。
- 腱そのものは元に戻りにくい
- だから負担を減らすことが重要
- 痛みだけではなく変形を防ぐことが目的
オーソティック(オーダーインソール)の重要性
治療の最優先事項:後脛骨筋の負担を極限まで減らす
先述の通り、一度傷ついた後脛骨筋腱は自力での再生が困難です。そのため、治療において何よりも最優先すべきは、「いかに腱にストレスをかけず、これ以上傷つけない環境を作るか」という点に尽きます。
後脛骨筋を痛める根本原因は、過回内(かかいない)や前足部の機能異常といった「足元の骨格の崩れ(バイオメカニクス異常)」にあります。この崩れを物理的に整え、腱にかかる負担をゼロに近づけることが、唯一無二の解決策となります。
靴とインソールの役割:メガネに例えるその重要性
よく「靴とインソール、どちらが大切ですか?」という議論になりますが、答えは「どちらも絶対に欠かせない」です。それぞれ役割が全く異なります。
これを「メガネ」に例えると非常に分かりやすくなります。
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インソール = 「レンズ」(視力にあわせてピントを合わせる役割)
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靴 = 「メガネフレーム」(レンズを正しい位置にがっちり固定する役割)
どれだけピントの合う素晴らしいレンズ(インソール)を作っても、フレーム(靴)がグラグラで歪んでいたら、正しい視界は得られません。逆に、頑丈なフレームであっても、レンズのピントが合っていなければ意味がありません。
「足を正しく矯正するインソール」と「それを足元でしっかり支える剛性の高い靴」。 この2つが揃って初めて、後脛骨筋を守るシステムが完成します。
米国足病医が処方する「オーソティクス」という選択肢
足元の崩れを高度な次元で整えるための究極のインソールが、「オーソティクス(足病用装具)」です。
日本では「インソール」と聞くと、靴のクッション性を高める柔らかい敷物をイメージしがちですが、米国足病外科医が処方する医療用のオーソティクスは全く異なります。
| 特徴 | 一般的なインソール(足底板) | 医療用オーソティクス |
| 主な素材 | スポンジやウレタン(柔らかい) | 特殊なプラスチックやカーボン(非常に硬い) |
| 目的 | クッション性・足裏の当たりを和らげる | 骨格の崩れを物理的に「矯正」する |
なぜ硬い素材なのか?
歩行時、足元には体重の数倍もの強い圧力がかかります。体重で潰れてしまうような柔らかい素材では、足の骨格を正しい位置に留める(矯正する)ことはできないからです。症状が重篤な方ほど、骨格をしっかり支え切るために硬い素材が必要になります。
「硬いと痛いのでは?」という誤解
「硬い素材だと足が痛くなりそう」と不安に思われるかもしれませんが、心配ありません。
オーソティクスは、足の動きや解剖学的構造を極めて精密に分析して作られます。足の裏に隙間なく100%フィットするため、局所的な圧迫が生まれず、実際に履いてみると驚くほど違和感がありません。
PTTDの根本原因は、足元のバイオメカニクスの異常です。
自然治癒が難しい腱を守り、進行を食い止めるために、精密に計算された「オーソティクス」による足元からの骨格矯正は、最も本質的かつ強力なアプローチとなります。
オーソティックの性能を発揮する靴
- 剛性
人間の足で大きく曲がる個所は指の付け根から先です。それ以外の個所が簡単に曲がってしまうようでは剛性が足りません。
またアウターソールやミッドソールも、指で押して簡単に凹むようでは体重を支えることができません。
これらの靴はオーソティックに不向きと言えます。 - ヒールカウンター
ヒールカウンターはライニングで踵部分を確り包み込み安定させられるものを選びましょう。 - 捻れにくさ
捻じれも剛性が必要ですが、多少のねじれは許容範囲と考えても良いでしょう。
PTTDのセルフチェック
下記の症状はPTTD以外でも、起こる症状です。
複数、当てはまるよう様なら専門医や専門家に相談しましょう。
□ 内くるぶしの下が痛い
□ 片足つま先立ちができない
□ 土踏まずが低くなった
□ つま先が外を向いてきた
□ 靴底の内側ばかり減る
よくある質問(FAQ)
PTTDは自然に治りますか?
PTTDは自然に改善することが難しく、進行性の経過をたどることがあります。そのため、早期から進行を食い止めることが重要です。
インソールだけで改善しますか?
PTTDでは一般的なインソールでは十分な効果が得られないことがあります。足の状態を評価したうえで、足のバイオメカニクスを改善できるオーソティックを選択することが重要です。
手術は必要になりますか?
完全な腱断裂や関節の変形を伴う場合は必要となる場合があります。
スポーツは続けられますか?
スポーツの種目やPTTDの度合いにもよります。専門家にじかに相談しましょう。
まとめ。
PTTDは、後脛骨筋腱だけの病気ではありません。
足のバイオメカニクスが乱れることで後脛骨筋腱へ過剰な負担がかかり、進行すると外反扁平足や変形性関節症へ発展することがあります。
そのため、重要なのは痛みだけを抑えることではなく、後脛骨筋腱へ負担をかけている原因を評価し、進行を防ぐことです。
外反扁平足が必ずしもPTTDとは限りませんが、足のバイオメカニクスが乱れているサインである可能性があります。
足の変形や歩き方が気になる方は、早めに専門家へ相談することをおすすめします
ご自身で判断が難しい場合は、スマートフォンで立った状態の足を前後・内側・外側から撮影してみましょう。左右を比較することで、アーチの低下や踵の傾きに気付けることがあります。







